ZENITシリーズはKMZ社の一眼レフカメラとして有名である。 その中でも、特にこのSUPRISE MT-1は、非常に変わった仕様のカメラとな っている。MT-1はもともと胃カメラの写真撮影などの医療用として作られ た製品であった。 MT-1は1979年〜1990年の期間発売された。ベースとなる機種はZENIT-T1 (ZENIT-19)という、1977年〜1987年にかけてリリースされたカメラとな っている。医療用としてリリースされたMT-1は、バヨネットマウントの固 定焦点レンズを搭載しており、レンズ先端には、顕微鏡や胃カメラに固定 するためのクランプが付いていた。ここに掲載したモデルは、それとは異 なるバージョンのもので、42スクリューマウントを搭載したハーフサイズ の一般的な仕様となっている。ハーフサイズカメラではあるものの、外観 はフルサイズ一眼レフと同じくらいの大きさがあり、大変に重い製品だ。 資料によれば、MT-1には以下の3つのタイプが存在していたようだ。 ・バヨネットマウント、ハーフサイズ版、レンズ固定焦点 ・42スクリューマウント、ハーフサイズ版(1985年リリース) ・42スクリューマウント、フルサイズ版(1986年リリース) それぞれの機種がどの程度製造されていたのかは不明であるが、現在の中 古市場では、目にするモデルのほとんどが固定焦点のバヨネットマウント 版であり、42スクリューマウントのハーフサイズ版は極めて数が少ない。 一眼レフ、ハーフサイズという仕様も若干特殊であるが、記録用カメラ らしく本体背面には0〜31までの数字をフィルムに写しこむことができる デートパックが搭載されているところも特徴的だ。このデートパックであ るが、本体シャッターとシンクロさせるため、背面に搭載されたパックか ら本体正面へコードが取り付けられている。こういった思い切ったことを 臆面も無くやってしまうところがすごい。 シャッターはメタル製で、縦方向にスライドする。シャッター速度は Bから1/1000まで、12段階に設定可能だ。シャッターボタンにはロック装 置が付いており、不用意にシャッターが下りないような仕組みとなってい る。シャッターの動作音は「騒音」とも呼べるほどうるさいものだ。 メカの一部は電子化されており、本体底部には日本では既に製造を中止 してしまった水銀ボタン電池「625A」を2個搭載する。これとは別に、デ ートパック用として、同電池3個を使用する。本体動作用電池の残量確認 は、ファインダー左横に搭載されたLEDでチェックすることが可能だ。 本機の場合、レンズはHELIOS-44M-4、58mm/F2.0が付いてきた。当然の ことながら、42スクリューマウントレンズであれば交換することができる ため、例えばMIR-20Mといった20mm/F3.5という広角レンズを搭載して楽 しむことも可能である。
メーカー | KMZ社 |
モデル名称 | SUPRISE MT-1 |
製造期間 | 1979年 - 1990年 |
総生産台数 | 不明 |
掲載モデルの製造年 | 1987 年 |
掲載モデルのシリアル番号 | 870968 番 |
シャッタースピード | B、1、1/2、1/4、1/8、1/15、1/30、1/60 1/125、1/250、1/500、1/1000 |
搭載レンズ | HELIOS-44M-4、58mm/F2.0 |
搭載レンズのシリアル番号 | 90147771 |
搭載レンズのマウント形式 | 42スクリューマウント |
ZENIT MT-1はハーフサイズの一眼レフであり、バヨネットマウントの固 定焦点版と42スクリューマウントの2つのバージョンが存在する。固定焦 点版は、実用には不向きであるが、42スクリューマウント版は、レンズを 交換して楽しむことが可能だ。その一例として、ZENITレンズの一つであ るMIR-20M、20mm/F3.5を搭載してみた。 MIR-20Mは1977年〜1992年の期間に製造されたことになっているが、本 製品の保証書欄を見ると2002年7月となっている。どうやらまだ現役で製 造されているものらしい。本体のシリアル番号は020113である。 MIR-20Mは、42スクリューマウントの広角レンズで、フルサイズフィル ムカメラに搭載すると20mmという広角で撮影することができる。これを MT-1のようなハーフサイズに搭載した場合の視野角は、約28.8mmとなり、 ハーフサイズでは異例とも言える広角カメラを実現できる。 さて、このMIR-20Mであるが、9枚構成のレンズだけあり、非常に重く て大きい製品だ。重量はレンズのみで354gもある。ZENIT MT-1に搭載し た場合の総重量は、実に1030gにも達する。まるでノートパソコン1台を 抱えて持つような感じだ。レンズの直径は65mmもあり、その前面が大きく 湾曲しているため、異様な迫力がある。 レンズ胴鏡部分には[M]、[A]と書かれたレバーがあるが、これは、撮影時 における絞りの状態を設定するためのもの。[M]に合わせておくと、絞り は設定リングの回転と連動して変化するが、[A]に設定するとオートモー ドとなり、通常は絞りが全開となっているが、シャッターが下りる瞬間に 設定した絞り値に変化する。[A]モードが無い時代の一眼レフでは、ファ インダー内を明るく見やすくするため、先ず絞りを全開にしてピントを合 わせ、シャッターを下ろす前に絞りを設定するといった方法を採っていた が、このカメラとレンズでは、それが自動的に行なわれるようになってい る。 さて、ここでいかにもロシアカメラらしい謎がある。筆者は、42スクリ ューマウントのZENIT MT-1を2台所有している。このうち、片方には上述 した絞り調整機構が搭載されているが、もう片方には無い。レンズを取り 外してみると判るのだが、絞りの調整機構は、シャッターが下りる瞬間に カメラ本体に内蔵されたノブがレンズ後端のピンを押すことで、絞りを設 定値に変化させる仕組みとなっている。一台のMT-1にはカメラ本体にこの 機構が入っているのだが、もう一台の製品には、ピンを押すノブのメカ部 分が、そっくりそのまま省略されてしまっている。 実は、ノブが省略されている方は、医療用としてリリースされていたも ので、付属品として一体どのように使用したら良いのかさっぱりわからな いレンズマウントアダプターが付いてきた。医療用ということもあり、絞 り調整を行なうといった作業が不要の製品だったと思われる。 この医療用バージョンのZENIT MT-1でも、MIR-20Mのようなマニュアル モードとオートモードの切り替え機構が付いているレンズであれば使用可 能だ。常時マニュアルモードとして用いていれば、問題無く撮影すること ができる。